「うちの職人は20年やっているから資格はなくても大丈夫」。建設業許可のご相談で、こうお話しされる経営者の方は少なくありません。実際、資格がなくても実務経験10年で営業所技術者等(専任技術者)を立てる道はあります。ところが、いざ準備を始めると手が止まる。経験があるのは間違いないのに、それを役所にどう見せればいいのかが分からないのです。
この記事は「その経験をどう書面で証明するのか」に絞ります。誰が専任技術者になれるかという要件は別記事で扱っています。なお本記事は東京都都市整備局の「建設業許可申請・変更の手引き」(令和8年度版)を基にしています。求められる資料や運用は許可行政庁(各都道府県や国土交通大臣)ごとに独自の違いがあるため、東京都以外で申請される場合は必ずその行政庁の手引きをご確認ください。
証明は「工事」と「常勤」の二階建てになっている
まず押さえていただきたいのは、実務経験の証明が一種類の資料では終わらない点です。必要なのは二つの層で、一つ目はその期間にその業種の建設工事を行っていたことを示す資料、二つ目はその期間その会社に常勤していたことを示す資料です。工事の資料は「証明者(会社)に工事実績があった」ことを示すもので、そこに本人の常勤を組み合わせて、はじめて「この人が工事経験を積んだ」と推定される建て付けです。
どちらか片方が10年分そろっていても足りません。請求書だけ集めていて、あとから常勤関係の資料を探し直すという手戻りはよくあります。
許可があった期間と、なかった期間で難易度がまったく違う
工事の側の資料は、その期間に会社が建設業許可を持っていたかで大きく変わります。許可を持っていた期間なら、建設業許可通知書、または受付印のある許可申請書・変更届出書・廃業届などの写しで足ります。証明したい業種に対応するものが必要で、経管と違い対象業種の許可期間が分かるものを全て添付します。東京都知事許可であれば、様式第九号(実務経験証明書)の空欄に、許可番号・許可業種・許可期間を備考として書くことで、この資料自体を省略できる扱いがあります。大臣許可や他の道府県知事許可の期間は、それぞれの許可行政庁への問い合わせになります。なお許可があった期間でも、実際に工事を行っていた期間の合計が10年以上必要です。
山場は、許可を持っていなかった期間です。この場合は工事請負契約書・注文書・請求書などで通年分を証明します。原則は1件で1か月分の経験と数え、請求書の発行月で判断されます。請求書なら入金が確認できる通帳の写しなどと1か月ずつ1セットにし、必要月数分を束ねる。10年なら120セットです。
もう一つ、注文書で証明する方法もあります。ただし1つの注文書の工期が3か月を超える場合は、3か月ごとに1件と、工期の最後の月の請求書が必要です。手引きの例では、工期が1〜6月なら3月と6月、2〜9月なら4月・7月・9月の請求書を出すことになっています。この場合、入金確認資料の提出は不要で、該当の注文書の後ろに添付します。
「期間確認表」の活用と、請求書等のとじ方
ただ、120か月分を丸ごと集める必要はありません。「経営経験・実務経験期間確認表」という一覧表を提出した場合、請求書等の間隔が四半期(3か月)未満である限り、その間の請求書等の写しの提出を省略できます。たとえば1月と4月の請求書等がそろっていれば、間の2月・3月分は出さなくてよい扱いです。逆に間隔が3か月以上空くと、その間は経験期間として認められません。
表には年月・工事件名・工期・請求書等の種別・入金確認資料の種別・通算月数を記入し、通算が120に達するまで埋めます。表は1番古い請求書等の直前に添付します。請求書等が証明しようとする期間の全てを含むことも条件です。手引きの例では、平成28年1月から令和7年12月の10年間を証明する場合、発行日が平成28年1月から令和7年12月までの請求書等が必要とされています。
並べ方にもルールがあり、ここを外すと窓口で組み直しになります。基本は、請求書等と入金確認資料を1か月ずつ1セットにし、古い年月順に束ねること。発注者ごとではなく年月順です。複数件をまとめて入金している場合は、合算した請求書の写しを全て間に挟むか、入金の内訳表を作って挟みます。内訳書や工期資料などの参考資料は、その案件の請求書と入金資料の間に入れます。証明者が複数にまたがる場合は、証明者ごとに請求書等の始月と終月のセットを必ず入れてください。なお発注者の押印がある注文書等であれば、入金確認資料は原則不要です(法人は代表者印に限られ、担当者印は原則不可)。
もう一点、1件の工期が著しく短い場合には、その月に複数の工事経験があることが分かる資料を追加で求められることがあります。
専任技術者は「業種が分かること」まで求められる
同じ請求書等による証明でも、経管の経営経験と専任技術者の実務経験では要求水準が違います。経管は、件名や内訳書から建設工事の請負だと分かればよく業種は問われません。一方の専任技術者では、件名や内訳書から証明しようとする業種の建設工事であることが明確に分かる必要があります。
「◯◯邸工事一式」「補修工事」といった件名だけでは業種が読み取れず、内訳書や図面などで補うことになりますが、10年前の案件でそれを用意するのは簡単ではありません。集め始める前に、手元の請求書の件名が業種を語っているかを確認しておくと見通しが立ちます。
なお、過去にいずれかの建設業許可で専任技術者として認められた方には近道があります。許可行政庁の受付印が押された建設業許可申請書(様式第一号)や変更届出書(第一面)と、これらに添付された様式第九号などの写しがあれば、その業種について実務経験の証明資料に代えられます。前職で専任技術者だった記憶があるなら、当時の控えを探す価値は十分にあります。
常勤の証明と、実務でつまずきやすいところ
常勤の側は、申請日現在の常勤性を示す資料に加えて証明期間の通年分を用意します。法人なら、氏名・生年月日が分かる資料と、その会社への所属が分かる資料です。証明期間の常勤性については、確認する期間が令和7年12月1日以前であっても、健康保険証の写しは資料として認められません。ほかの確認資料を期間通年分用意します。また、営業所から片道おおむね2時間以上かかる場所に住んでいる場合は、通勤定期券やETCの記録など通勤を疎明する資料を求められることがあります。
実務でつまずくのは、たいてい前職期間です。当時の勤務先に協力を仰ぐ必要がありますが、関係が良好とは限らず、会社が既に解散していることもあります。請求書が本人の手元に残っていないケースも珍しくありません。こうした場合は、証明できる期間を組み直して足りる範囲を探ります。早い段階で棚卸ししておくほど選択肢は残ります。
まとめ
実務経験10年の証明は、工事の資料と常勤の資料を10年分そろえる二階建ての作業です。許可があった期間は通知書等で済み、なかった期間は請求書等と入金資料の積み上げになります。そこで効いてくるのが期間確認表です。
年数の要件は満たしていても、資料の集め方や並べ方で行き詰まるのがこの手続きです。当事務所では建設業許可申請のサポートとして、どの期間をどの資料で証明するかの組み立てから書類の整理までお手伝いしています。手元の資料で足りるか判断がつかない段階でも構いません。台東区の行政書士事務所ONEまでお気軽にご相談ください。



