「一般の許可は持っているけれど、そろそろ元請として大きく下請に出したい」。そう考えて特定建設業への切り替えを検討し始めると、最初に引っかかるのが専任技術者の要件です。一般のときは資格か実務経験10年で通ったのに、特定はそう簡単ではないらしい。何がどう違うのか分からないまま止まっている、という経営者の方は少なくありません。
本記事は東京都都市整備局が公表している「建設業許可申請・変更の手引き」を基に記載しています。建設業法そのものは全国共通ですが、求められる確認資料や運用の細部には許可行政庁(各都道府県・国土交通大臣)ごとの独自の違いがあります。東京都以外で申請する場合は、その行政庁が出している手引きを事前に確認してください。一般建設業の専任技術者の要件は別記事で扱っています。
もう一点。この記事で扱う専任技術者は「営業所に置く技術者」で、工事現場に置く主任技術者・監理技術者(配置技術者)とは別の制度です。要件も配置のルールも異なります。現場の技術者の専任が必要になる金額基準はこちらの記事で整理しています。
そもそも特定建設業の許可が必要になるのはどんな場面か
特定建設業は、発注者から直接工事を請け負った元請が、一定金額以上の下請契約を結ぶ場合に必要な許可です。工事の全部を自社で施工する場合や、下請に出す金額が基準未満の場合は一般の許可のままで足ります。制度の目的は下請負人の保護にあり、元請側に重い資格と義務が課されます。
その金額基準は、2025年(令和7年)2月1日施行の政令改正で引き上げられています。改正前は4,500万円以上(建築一式工事は7,000万円以上)でしたが、現在は5,000万円以上(建築一式工事は8,000万円以上)を下請契約する場合に特定の許可が必要になっています。いずれも消費税込みで、複数の下請業者に出すときはその合計額で判断します。
見落とされやすいのが契約変更です。当初の合計額が基準未満でも、変更契約で基準額を超える場合は、その変更契約を締結する前に特定の許可へ切り替える必要があります。
特定建設業の専任技術者になれる3つのルート
手引きの区分に沿うと、特定建設業の専任技術者(手引きでは「特定営業所技術者」と呼ばれています)になれるのは、次の3つのいずれかに当たる人です。
- 許可を受けようとする業種に応じた1級の国家資格等を持っている人
- 一般建設業の専任技術者の要件(指定学科卒+実務経験、または実務経験10年など)を満たす人のうち、元請として請負代金4,500万円以上の工事について2年以上の指導監督的な実務経験を有する人
- 国土交通大臣が上の2つと同等以上の能力を有すると認定した人
ここで数字のねじれに注意が必要です。許可が必要になる下請契約の基準は5,000万円へ引き上げられましたが、指導監督的実務経験として認められる工事の金額は4,500万円以上(消費税込)のままです。指す場面が違うため、混ぜて覚えると判断を誤ります。
指定建設業7業種では実務経験のルートが閉じている
一般との最大の違いはここです。土木一式・建築一式・電気・管・鋼構造物・舗装・造園の7業種は「指定建設業」と位置づけられ、施工技術の総合性などが考慮される結果、指導監督的な実務経験のみで技術者要件を証明した人では特定建設業の許可を受けられません。1級の国家資格・技術士資格、または大臣認定が求められます。
実務でいちばん効いてくるのがこの点です。管工事で長年、元請として大きな現場を回してきた技術者がいても、1級の資格がなければ特定の専任技術者には据えられません。指定建設業でない業種なら実務経験のルートが残るため、どちらに属するかで進め方も準備期間も変わります。
「指導監督的な実務経験」の中身と、その証明のしかた
指導監督的な実務経験とは、建設工事の設計または施工の全般について、元請として工事現場主任や工事現場監督のような立場で工事の技術面を総合的に指導した経験をいいます。現場に長く出ていたというだけでは足りず、技術面を総合的に見る立場にあったかが問われます。
東京都の手引きでは、認められる工事の目安も示されています。発注者から直接請け負った元請工事に限られ、下請としての経験は該当しません。1件の工事につき1名のみで、工事経歴書上の主任技術者である必要があります。請負代金は4,500万円以上(消費税込)、完成工事であること、附帯工事ではなく主たる建設工事であることも条件です。
期間の数え方も独特です。経験期間は該当工事の工期そのもので、その合計が2年(24か月)以上必要です。複数の工事で工期が重なる部分は重複して数えられず、工期中に請負代金の額が変わった場合は、金額要件を満たす期間だけが認められます。
一方で、知っておくと有利な扱いもあります。営業所技術者(専技)の要件として数える実務経験と、この指導監督的実務経験は、同じ期間を重ねて算定できるとされています。10年の実務経験を積む過程で元請の大型工事を担当していれば、その期間は両方の要件に効くということです。特定への切り替えを見据えるなら、どの工事で誰が指導監督的な立場にあったかを、その都度記録に残しておく価値があります。
証明資料は、様式第十号の指導監督的実務経験証明書に加え、そこに記載した工事の請負契約書の写しや施工体系図など、その技術者が指導監督的な地位にあったことが分かる資料です。金額と、自社が元請であったことと、その期間にその立場にあったことを書面でそろえます。一般の実務経験の証明よりハードルが高いのは、年数を並べるだけでなく1件ごとに契約と役割を裏づけるためです。なお監理技術者資格者証があれば、この証明書による証明は不要です。
なお「専任」の意味は一般と同じで、その営業所に常勤して専らその職務に従事することを指します。他の営業所の専任技術者を兼ねることはできず、通勤が困難なほど遠方に住む場合や他社の常勤役員である場合も専任とは扱われません。
つまずきやすいのはこの3点
ご相談で多いのは、一般で認められていた専任技術者がそのまま特定の専任技術者になれると考えていたケースです。要件は別物で、実務経験10年で一般を通していた人は、そこから指導監督的な実務経験2年分を積み上げることになります。
次に、指定建設業のため実務経験ルート自体が使えないケース。そして、2年分の元請契約の資料が手元に残っていないケースです。契約書や施工体系図は、必要になってから探すと出てこないことがあります。
特定建設業では財産的基礎の要件も格段に重くなります。欠損の額、流動比率、資本金2,000万円以上、自己資本4,000万円以上といった数値を直前の確定した決算で満たす必要があり、技術者の目処が立っても決算内容で足踏みすることがあります。詳細は別記事で整理します。
まとめ
特定建設業の専任技術者になれるのは、1級資格等を持つ人、指導監督的な実務経験を2年以上有する人、大臣認定を受けた人です。指定建設業の7業種では実務経験のルートが使えず、資格者の確保が前提になります。実務経験のルートでも、元請・4,500万円以上・完成工事という条件を1件ずつ書面で証明することになります。
※金額基準や取扱いは改正されることがあります。最新情報は東京都都市整備局など許可行政庁の公式サイトをご確認ください。
当事務所では、建設業許可の申請から経審、入札参加資格までのサポートを行っています。建設業許可・経審・入札参加資格審査申請サポートのページもご覧ください。「うちの技術者で特定が取れそうか」「昔の契約書が残っているか不安」という段階のご相談も承っています。資料を拝見しながら、どのルートが現実的か一緒に整理していきます。



